【株式の相続】株式の相続による名義変更手続き
株式は、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはありません。これは平成26年2月25日の最高裁判所による判断です。
したがって、当然には相続人各人に分割されないのですから、遺言書で遺産分割方法が指定されているか、遺産分割協議が成立するまでは、株式は相続人によって「準共有」されることとなります。
相続人が1名の場合は株式は単独所有となり問題なく株式の名義変更手続きを進めることができますが、相続人が複数おり、遺言書などがのこされておらず、遺産分割協議も成立しない場合には少々面倒なこととなります。
また上場株式と未上場株式では手続きがまったく異なります。
そして上場株式の場合でも、証券会社の口座で管理されている株式と自宅で保管していたタンス株とでは名義変更手続きがまったく異なることとなります。
以下では次の場合分けをして株式の名義変更手続きについてご説明します。
1 上場株式が証券会社の口座で管理されている場合の名義変更手続き
2 上場株式の株券が自宅から発見された場合の名義変更手続き
3 未上場株式を相続した場合の名義変更手続き
1 上場株式が証券会社の口座で管理されている場合の名義変更手続き
上場株式が証券会社の口座で管理されている場合が手続きが最も整備されており、面倒ではあっても分かりやすいです。
この場合には証券会社において「移管」作業を行います。
「移管」とは被相続人名義の口座の内容を相続人名義の口座へ移す作業のことを言います。
したがってこの手続きをするためには移管先の口座が必ず必要なため、相続人が証券会社に口座を開いているか、新たに口座を開設する必要があります。
移管作業には3日から2週間程度かかることが多く、口座内の資産内容により移管に必要な時間が異なります。
株式のまま相続することを好まず、すぐに現金化したい場合であっても、まずはこの移管手続きをしないことには、株式を売却することはできません。
●遺言書が存在する場合の株式の名義変更手続きに必要な書類の例
(例)
・遺言書(検認済みのもの)
・被相続人の戸籍謄本
・移管される相続人の印鑑証明書
・証券会社指定の各種書面
●遺産分割協議が成立した場合の株式の名義変更手続きに必要な書類の例
(例)
・遺産分割協議書
・被相続人の戸籍謄本
・相続人全員の戸籍謄本
・相続人全員の印鑑証明書
・証券会社指定の各種書面
2 上場株式の株券が自宅から発見された場合の名義変更手続き
上場会社の株券は2009年にすべて電子化され、株券は無効となりました。
ただし会社所有者の権利としての株式は失われておらず、各上場会社が指定する信託銀行などの特別口座で管理されている可能性があります。
このためもし自宅の金庫やタンスのなかから上場会社の株券を発見した場合にはまず、「失念救済」という手続きを検討しましょう。
失念救済とは、失念株主名義の特別口座を開設し、この口座へ信託銀行等が用意した特別口座から株式を振替える手続きのことです。
失念救済請求書は通常、失念株主名義での振替先の口座開設の必要から特別口座開設請求書を兼ねています。
3 未上場株式を相続した場合の名義変更手続き
未上場の会社は定款で株式に譲渡制限をつけている場合がほとんどですが、相続を原因とした株式の移転の場合は、譲渡について会社の承認を得る必要はありません。
ただし定款で定めがある場合、会社は株式の相続人に譲渡制限株式の売渡請求をすることができます。
会社法第174条(相続人等に対する売渡しの請求に関する定款の定め)
株式会社は、相続その他の一般承継により当該株式会社の株式(譲渡制限株式に限る。)を取得した者に対し、当該株式を当該株式会社に売り渡すことを請求することができる旨を定款で定めることができる。
株主名簿の書き換えが行なわれることによってはじめて、会社にとって自明の株主となりますので、速やかに株主名簿書換請求をしましょう。
株主名簿書換は、株式を発行した会社の総務部や、株式を発行した会社が定款で指定した株主名簿管理人(信託会社や株式代行会社など)に対して請求します。
亡くなった方が未上場株式を保有しているケースの多くは、故人自ら又は故人の親族が経営している会社の株式であることが大半です。
この場合は、単なる財産としての株式の相続にとどまらず、「会社の承継」つまり「事業承継」の問題であるため、通常は亡くなった方が生前に遺言書を作成し株式を相続人の誰かに「相続させる」旨を遺言し、さらには株式を相続しない相続人への代償対価を生命保険などを活用して手当てしておくなどの対策がとられていることが多いです。
つまり遺言書を添付して株主名簿書換請求を行うケースが多くみられます。
通常のケースで要求される必要書類は次の通りです。
(例)
・株主名簿書換請求書兼株主票
・共同株主代表届 ※株式が遺産分割されておらず相続人で共有されているとき
・被相続人の戸籍謄本
・相続人の戸籍謄本
・遺言書又は遺産分割協議書
・相続人の印鑑証明書
・株券 ※株券が発行されている場合